2019年のレースは中根選手をアシストしてほしいとチームから言われて、自分なりにストイックに準備をしました。
前回の準備編の記事はこちらです→アシスト選手の準備~2019年シーズンの自分~
今回はレースのレポートではなくアシスト選手の仕事について書いていきます。
アシストをする上で大事なことを最初に簡単に述べます。
- チームメートに今何をしてほしいか聞いて実行すること
- 自分で状況を見て必要なことを感じ取って実行すること
- レース中は無線を持っているので、それで監督が乗っているチームカーとやり取りして、監督が求めることを聞き実行すること
目次
初戦はコロンビア
2019年初戦はコロンビアでした。コロンビアのレースは高地なので凄くキツいレースになることは行く前から分かっていました。
中途半端なコンディションで行ったらただただ疲れて帰ってくるということが分かっていました。
レースは結果を出す出さないは一旦別にして、自分とレースのレベルが離れすぎているとコンディションが上がるどころか、下がっていってしまい良いことがありません。
コロンビアのレースはワールドツアーのチームも出場していたし、ワールドツアーで近頃猛威をふるっている有名コロンビア人クライマーの選手は全員出場していました。
更にコロンビア人はワールドツアーのチームに所属していなくても物凄く強いです。アジアツアーなどでもコロンビア人が結果を残していたりします。
レベルが高くて、苦しいレースになることは行く前から分かっていたので、スペインでチームキャンプが終わった後も、個人でそのままスペインに残りトレーニングを続けていました。
高地でのレースなので1週間前から現地に入りました。
高地に少しでも順応するには最低でも1週間はかかるからです。
一緒に走るメンバーの中には僕がアシストをする中根選手も入っていました。
レース開始
第1ステージはチームTTでした。僕たちのチームは28チーム中11位と結果は悪くありませんでした。全員でローテーションを回しほぼ全員でゴール。若手コロンビア人クライマーのオゾリオ選手の引きが半端ではなく助かりました。僕もチームの迷惑にならないように監督の指示でローテーションの時間を守りながらチームTTをこなしました。
第2ステージからは基本ボトル運びの仕事でした。このレースでははっきりアシスト選手と呼ばれる選手が6人中僕しかいなかったからです。
コロンビアのレースではコロンビア人や周りの高地出身の南米人が圧倒的に有利です。高地というものは頑張ろうと気合いで乗りきれるものではないからです。
なのでチームに2人いるコロンビア人、オゾリオ選手とルーベン選手は結果を、コロンビア人ではない3人、サンタロミータ選手はエース(レース前の練習で落車して身体の調子悪い)、イメリオ選手はエーススプリンター、中根選手は僕がアシストを頼まれているエース。
ということで働き蜂は僕です。
ボトル運びはどのように行うか
ボトル運びは基本ペースがゆっくりの時などに集団の後ろを走っているチームカーにボトルを人数分取りに行って、チームメートの所まで運びます。
補給をする際は、集団の1番後ろまで下がって、集団後ろの1番近くを走っている審判車(コミッセールカー)にボトルを持って手を挙げて、補給をしたいという意思を伝えます。
そうするとコミッセールカーがチームカーを無線で呼んでくれて、チームカーがコミッセールカーの後ろまで来ます。
コミッセールカーを呼ぶ前にチームには補給に行くと無線で伝えてあるので、正確にはコミッセールカーに補給をする許可を得るということです。
コミッセールカーの後ろにチームカーが来ると、チームカーから無線が入り、今、すぐ後ろに来ているから下がってこいと言われます。
そしてチームカーの所まで下がり補給を人数分受けとり、集団内にいるチームメートまで届けます。
ちなみにチームカーは集団の1番近くを走っているコミッセールカーを抜かすことはできません。
ボトル運びで苦労したコロンビアのレース
ただこのレース、あまり集団がゆっくりな時がないレースでした。
そしてコースがキツい。
そして何よりボトルを運ぶ時に1番苦労したのはコース上に連続して登場するバンプ(道路にある減速の為の段差)です。
写真の奥の道路にある黄色い段差がバンプです。
バンプが登場するとどうなるか、バンプが登場する時に自転車は基本減速せずに走り抜けますが、車はかなり減速して走ります。
その減速の間で自転車の集団と車の集団にかなりの間が開いてしまうのです。そして差が生まれたあとは自転車で走れないような速度で差を埋めにかかります。
バンプが登場する度に集団に復帰するまでにボトルを5人分背負いながら長時間、そして集団より速いペースで走らなければならないのです。
普段のレースでは集団の後ろとチームカーの距離がそこまで離れてなく、ボトルを運ぶ時に苦労するのはチームメートまで届ける時のみです。
このレースではずっとコミッセールカーの後ろにいるとバンプが登場するとまた集団から離れてしまうので、どこかで絶対的に自力で走らなければなりませんでした。
監督から今は復帰するのが1番だからボトルを捨てろと言われたこともありました。
上手く伝わったか分かりませんが、そのようなことがあり、このレースのボトル運びは普段のボトル運びよりハードでした。
コース、ペースがキツすぎて遅れた時には仕事はできませんが基本はこのような働きでした。
第4ステージまでそのようなことをこなし、少し標高が下がった第4ステージでは中根選手が5位に入ってくれて僕も嬉しかったです。
しかし事件が起きたのは第5ステージでした。
最悪のスタート、第5ステージ
第5ステージは下りスタートでした。
そしてなぜだかこの日のスタートは何か殺気立っていて僕もピリピリした空気を感じ取っていました。
しかし僕も集団の前方で逃げのチェックを行わなければならないので前方に位置していました。
ポジション取りも激しく、スタートして直ぐに大クラッシュが起きました。下りのクラッシュだったので大クラッシュになりました。
僕も巻き込まれ、中根選手も巻き込まれました。
結構なスピードで転んだ為に自転車を直して再スタート。再スタートした時には集団は遥か彼方。集団に追い付くまでに時より車を使いながらの単独走行でかなりの時間を要しました。
そして集団に追い付いた時には、なんとその集団はメインの集団から遅れた集団でした。
主に落車した選手が多く、ペースも上がりませんでした。そこには中根選手も含まれており、僕はこの集団を前に戻そうと前を長時間引き始めます。
ただ中根選手に身体の状態を確認したところ、あまりに身体が痛いので先に行って下さいとの事でした。なのでそこからモビスターの選手と2人で、もう1つ前の集団を目指しました。そして長時間2人での走行の上、1つ前の集団に追い付いてゴールしました。
大人数で走った方が楽なのに、なぜこの集団から飛び出したかというと、あまりにペースが上がらないとその日にこの集団がタイムアウトになってしまう可能性があったからです。
そしてこのステージで中根選手はリタイアしてしまいます。支えなければならない選手を置いて走っていくのは良いことではありませんが、本人と話してかなり身体が悪そうだったのでそのように判断しました。
あとは中根選手の場合僕は、走りを後ろから見ているだけで今日は調子良さそうとか今日は調子悪そうだなと分かったりします。
最終第6ステージ
中根選手とサンタロミータ選手が怪我の為に第6ステージを走らないこととなりました。
このステージは最後に登坂距離15kmの頂上ゴールでした。
この日のミッションはここまで総合成績の良いオゾリオ選手を上り口で良いポジションに連れていき上ってもらうこととボトル運びです。
ボトル運びもこなし、最後の上り口手前10kmくらいから集団の前方にチームメートのコロンビア人選手2人をイメリオ選手と僕で引き連れてポジション取りをしていきました。
かなり気合いをいれてポジション取りをして、力は使いましたが、常に前方に位置してオゾリオ選手を上り口までエスコートできました。そこから3.4kmはオゾリオ選手の近くで走り、チームスカイの牽引が強力だったので、僕はドロップしてそこから自分のペースで上りました。
自分のペースと言ってももう誰もアシストする選手もいないし、今後のシーズンの為にと自分を追い込んでゴールしました。
結果はトップのナイロ・キンタナ選手から7分47秒遅れでした。世界のトップは半端ではないとまた思いました。
コロンビアのレースはこのような形で幕を閉じました。
ただこのクラッシュ、そして直前のアルゼンチンでのレースの食あたりが原因からなのか中根選手のコンディションは思ったように上がらないということになり、僕も困惑してしまうシーズンになってしまいます。
アシスト選手の葛藤に続きます。