プロサイクリスト 伊藤雅和

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全日本選手権

投稿日:

先日行われた全日本選手権結果はチームメートの草場が優勝を果たしました。


photo: Itaru Mitsui

愛三工業レーシングチームとしては現在チームコーチを務める西谷泰治さんが優勝した2009年以来12年ぶりの全日本優勝になりました。

僕自身も今回の全日本には並々ならぬ覚悟を持って準備を行い自分が勝つ為にレースに入りました。

 

全日本に至るまで

僕がNIPPOから愛三に帰ってきた時にやるぞと決めていたことはシンプルに2つです。

1つ目はNIPPOでは中々できなかった自分の成績を求めて走ること。

2つ目は若い選手達に走り方や選手としてのノウハウ、これまでの経験を還元させることです。

レースは水物です。チームから優勝者が出たらそれは成功体験。優勝者が出なかったら失敗です。選手としては同じような取り組みを毎回ストイックにしているけど、失敗した時はそれすら失敗になり優勝したら全ての動きが成功になる。これは不思議なことだと思いますが、愛三としては全員が勝つという強い意志をもって入った全日本選手権でした。

僕が優勝したわけではないですが、今回の優勝はこのチームがチーム全員で本当に大きく成長を遂げての結果だと思っています。だから本気で全員で喜べました。

僕がチームに合流したのは2年前ですが、その時愛三が次の全日本を勝つと想像した人は正直0人だったんではないでしょうか。

これまでのレースで失敗してるなとか、あのチームは何がしたいんだと思った人も沢山いると思います。これは当たり前かもしれませんがレースを動かす展開を作ったとしても、勝つまで僕らのチームを誉めてくれること人はほぼいなかったです。

全員で全員が成長したいと本気で願った2年間で、毎レース毎レース、テーマを持って試行錯誤しながらレースに取り組んだ2年間だと思っています。

 

レース前のミーティング

レース前のミーティングではやること(仕事)をチーム全員、個人個人ではっきりと明確化しておくことが大事です。

レース中は何が起きるか分からない、走ってみないとコンディションが分からないこともありますが、まず最初の動きはチーム全体で共有していくとレースに入りやすいです。

今年のレースでは昨年と比べてレース前に今日はこのようにしてこうやってレースを作っていこう、もしくは展開を待ってレースにこのように乗っていこうなどと決めていました。

うまくいかないことも多かったかもしれませんが目的をしっかり持ってレースに入っていました。うまくいかなかったことはレース後に話せばいいですし、色々試すには周回コースで行われる日本のレースは最高です。

軸を決める

今回のレースは伊藤、岡本、草場の3人をエースとして戦うという軸をまず決めました。

他のチームが僕らのチームをどう捉えていたか分からなかったですが、3人のコンディションが整っていたので、厳しい展開になったとしてもこの3人で必ず勝負できると僕達は分かっていました。

上りで勝負がかかったら僕が対応、それ以外の動きは2人が対応、有力どころがいった時には必ず反応して後手を踏まない。最後スプリントになれば絶対に連れていきたくない岡本、草場の2人がいることはかなり武器になります。

レース開始直後で1番危惧していたことは日本のレースでありがちな序盤に逃げが決まり集団が完全に止まって、その逃げ集団がゴールまで行ってしまって勝負ありという展開です。僕らのチームは3人で後半勝負がしたかったからです。

アシストの役割を決める、レース展開予想

序盤に大人数の逃げができそうな場合は3人以外のメンバーの鈴木、住吉、當原、大前、中川、渡邉でしっかりと対応して、逃げに乗っていくわけではなく集団を1つにする、この動きをコントロールできる少人数の逃げが決まるまで徹底して続けていく予定でした。逃げの人数は多くても5人。

そしてエースの3人は序盤ではチームメートに全て任せて全く脚を使わない、勝負がかかる時に備えるということでした。

このチームメートに全て任すということは信頼していないとできません。

誰もが勝ちたい全日本選手権。

もしアシストとして走ったとしても自分が逃げに入ることで勝機が見えないわけではないことや、アシスト選手達でも追えない大人数の強力な逃げができてしまう可能性もあるからです。

1人1人が勝つ為に1つのチームになっていたので、この作戦に異を唱える選手は1人もいませんでした。

逃げができた時にはチームからコントロールに入ることも決めていました。集団先頭でコントロールをすることによってチーム全員前方で固まり、下りで1列に伸びやすい今回のコースでは後ろにいる選手の脚も削ることができるのではということでした。

そしてコントロールを開始した後、できれば逃げが入っていない他のチームにコントロールの協力を仰ぎ、共にコントロールを開始しようと決めていました。

ただ全日本というある意味特殊なレース。最初から行きたい選手は少ないのではないかという予想もチームで共有していました。

 

作戦まとめ

ここまで書きましたが役割は明確、3人は後半の勝負までチームメートを信頼して脚を使わない、6人は逃げの選別を行い、大人数の逃げを行かせない。少人数を行かせた後はコントロールを開始しエース選手を守ることでした。

他チームのことは他のレースで走ってたこともあって脅威と感じてたチームはなかったですが、唯一怖いと思ってたのは中根選手でした。もちろん他にも強い選手はいるのは分かっていましたが、後半勝負をして3人全員が置き去りにされることはないと考えていました。何かあったとして3人のうち誰かは対応できると踏んでいました。

ただ中根選手のポテンシャルだけは読めない。僕はチームメートだったからよく知っているけど調子が悪くなければかなり強い。そして2年前より確実に強くなっていることは本人の自信をみて分かっていました。

 

レース

作戦も決まっていたのでリラックスしてレースに入りました。


photo: Itaru Mitsui

レース直後は6人の選手に任せていたので落車だけに気をつけて集団中盤程で走っていました。

しばらく走るとチームメートが先頭を陣取って走るのが見えたので、集団前方に走りチームメートと合流しました。

僕は逃げが何人で決まっているかも分かっていませんでした。

全く最初の展開は見ていなくて、チームメートが前を固めたのを見て逃げが決まったんだな、前に行こうとチームメートの所まで行きました。


photo: Kanako Takizawa

そこからはリラックスして走りました。集団は中川、當原2人で引っ張ってくれました。僕は2人がコントロールしてくれている間、前輪のスポークがとんで住吉に車輪をもらいました。住吉がその後すぐに補給所でチームの車輪に変えた所、指定された所以外の交換は禁止されていると失格にされてしまいました。自分の車輪交換のせいで失格にされたと凄く申し訳ない気持ちになりました。ゴール後に謝りました。


photo: Itaru Mitsui

そのようなこともあり残り5周でキナンサイクリングチームのペースアップが始まりました。

ついにレースが始まったと集中します。

その後はとにかく展開に乗り遅れないように、ペースアップが起きれば対応していきます。

僕達のチームは予定通り3人残せていました。

残り4周の上りでの中根選手のペースアップはとにかく強烈でした。かなり速かったです。

 


photo: cyclowired/Satoru Kato

チームメートだった時のことを思い出し、あそこから更にめちゃくちゃ強くなってるじゃん!速すぎるわ!と思いながら着いていきます。

本命選手達の上りペースアップに対してのチェックは自分の担当だと思っていたので躊躇なく反応していきます。そこ以外のチェックは岡本、草場と行います。

上りが終わる度に集団はかなり小さくなります。毎回そこには入ることはできていました。ただその後の下りで追い付かれて集団はまたある程度の人数になるということを繰り返します。


photo: cyclowired/Satoru Kato

そこからは積極的に動く中根選手、小石選手の動きを見ながら走ります。岡本と協力して反応していきました。細かい動きは沢山あったので全てを覚えている訳ではないですが、焦りは一切なかったです。

誰も行かなそうな所で自分から行くこともありましたが、チェックに入る回数の方が断然多かったです。

いつも嫌な所でアタックをかける入部選手が残り2周の上りでアタックをかけました。

それに追従する選手はいなくて入部選手単独走になりました。

集団内で入部選手が逃げ切って良い選手は誰もいなかったので、展開に身を任せれば1人で逃げ切れることはないのではないかと考え、とにかく次の動きに乗り遅れないように集中します。

このような次の展開が大事な時にチームメートが多ければ多いほど有利になります。

僕らはまだ3人いたので落ち着いて他のチームの動きを見れました。


photo: cyclowired/Satoru Kato

岡本がかなり逃げに反応してくれて助かりました。

最後の上りに入ります。頂上手前で自分も遅れそうになりましたがなんとか越えると集団は9人になっていました。

ここからどうしようと考えましたが自分もスプリントで勝負してみようと腹をくくりました。


photo: Kanako Takizawa


photo: Kanako Takizawa

結果僕のスプリントは全くかからずに失敗に終わったわけですが、前を見ると青いジャージが先頭でゴールを越えていました。


photo: Itaru Mitsui

草場が勝った。

 

勝った全日本

草場が勝ったことに少し驚きましたがとにかく嬉しかったです。とにかくあの勝負勘は素晴らしい。驚いたけど草場のこと信じてもいました。

正直残り1、2周まで草場の姿をほとんど見なかったので調子が良くないのかと思ってました。ただ残り1周の上りで軽そうに走っていたのを見てこれはいけるかもと。

勝つって本当に素晴らしい。ただ勝つって本当に難しい。草場は凄いことをやり遂げました。


photo: Itaru Mitsui

僕も勝ちたかったけど、勝つ為に準備してきたけどチームメートが勝ってくれたなら本気で嬉しかったです。

最初にも書いたけど勝ってくれて初めてレース中の動きも意味があってくる。あそこで負けたら愛三は何をしたかったんだと言われる世界。

僕も最初からアシストのつもりで走ってた訳ではなく勝つ為に上りのアタックに対応していましたし、どこかでライバル達を出し抜きたいと思っていましたし、岡本も勝つ為にアタックに乗っていってたと思いますし、乗って最後にスプリントすれば勝てる可能性は高いですし、草場は脚をうまく溜められればスプリントで勝つ自信があったから見極めて動いてたと思います。

結果自分と岡本が前で反応していたから草場も安心して集団にいれたと思うので、僕らの勝つための動きも無駄にはならなかったと思います。本気で勝とうとしていた選手が3人いるとこんなにも幅が広がるのだと再認識できたレースだったのではと思います。

僕は日本では良い選手だったかもしれないけど、勝つという部分では決め手にかける選手です。勝った草場は本当に素晴らしい選手だと思います。


photo: Itaru Mitsui

これからも今のように胡座をかかずに競技に対して謙虚に真剣に向き合ってほしいと心から願います。

そして勝ってくれて初めてチームメート全員の働きが記事となって報われる。

勝った草場が言ってくれているように全員がいなければ勝てなかった全日本選手権になったのではないかと僕も思います。


photo: Itaru Mitsui

そして中根選手はやっぱり強かったです。もちろん今回の全日本選手権では1番強かった。いつもレースでは同じような所を走る増田選手、小石選手、山本選手、最後に残った選手達ももちろん強かったです。僕はあの最後に残る為にどれくらい努力しているかは分かっているつもりです。


photo: Itaru Mitsui

草場が勝ってくれた全日本。忘れることはないと思います。

応援ありがとうございました!

 

 

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