ブエルタエスパーニャ2020、第6ステージをテレビで観ていて下りで攻めたチーム、下りでタイムを失ったチームがいたので下りでリスクを負うことについて考えてみました。
目次
下りでリスクを負うとは
下りでリスクを負うということは下りをより速く走り、攻める分落車の危険性を高めてしまうということです。
まず下りで起こりうる落車は
- スピードが速すぎる為にカーブを曲がりきれずにコースアウト、落車
- スピードが速すぎる為にタイヤのグリップが耐えきれずに落車
- 自転車を倒し過ぎて、タイヤのグリップが耐えきれずに落車
- スピードが速すぎて障害物が見えなくて踏んでしまい落車
などがあります。そして落車はスピードが速ければ速いほどケガの具合も重くなることが多いです。
これらの落車のリスクは上りではほぼないです。平坦、下りで多くあります。
そしてブエルタエスパーニャ2020第6ステージは雨が降っていました。
雨が降ると下りで落車するリスクは高まります。
リスクを負ってタイム差を得る、タイム差を得れなくてもライバルの脚を削れればそれは成功となります。
第6ステージの最後の下りで何が起きたかは分かりませんが、明らかにペースアップがあって消耗した選手、チームがいたと思いました。
なぜ雨が降ると落車するリスクが高まるのか
雨が降ると晴れた日と比べて1番変わってくるのはタイヤのグリップです。
晴れの日と同じスピードで下っていても雨が降っていたらタイヤが地面とのグリップを失い転んでしまうことがあります。
そして日本の道路は比較的グリップする路面が多いですが、ヨーロッパの道路は雨が降ったらツルツルに滑る路面があります。日本よりはヨーロッパの道路の方が滑ります。なのでヨーロッパのレースで雨が降ってきたきたら、日本のレースより下りのスピードは遅いことも多々あります。結構慎重に下ります。僕もどうしようもなく滑って転んでしまったことがあります。
ちなみに雨が降ると道路にある金属の繋ぎ目、マンホールなどはかなり滑ります。白線も滑ります。
落車しない為に大事なこと
僕が今考えられることは3つあります。
テクニック
落車しない為に大事なことはまずはテクニックが1番です。本当に下りが速い選手のバイクコントロールは凄いです。後ろから観ていて明らかに速いことが分かります。日本人で今までそのような選手を見たことはありませんが、海外の選手で下りが上手すぎる選手を見たときはブレーキングのタイミング、バイクの傾き具合、体重移動、ライン取りとなど全てがスゴすぎると感じました。これが下りが上手いと言うんだと納得しました。
カーブでこれくらいバイクを倒しても転ばない、これくらいのカーブの深さならこれくらいのスピードで突っ込めば曲がれる、レースならば道幅いっぱいを使う、このラインから入ってこれくらいのラインでカーブを抜ける、体重移動はこうするなど、これらを全て瞬間で理解し、ギリギリを攻めることができる選手が下りが速い選手です。
下りに自信がない方は僕が思う下りが手っ取り早く速くなるテクニックについて過去に記事を書いています。
→コーナー、下りを速く走る為に
機材に対して自分が信頼をおけていることが大事
タイヤ
雨でもタイヤがグリップしてくれるという安心感が自分にないといくら下りのテクニックがあっても攻めきれません。これは各チーム使っているタイヤが違うので、そこにバラつきが出てしまうことがあると思います。
僕らが使っているコンチネンタルのタイヤはお勧めです。
例えば今回のブエルタ第6ステージで下りが速かったチームのタイヤを参考にすることはありかもしれません。個人ではなく前方で下っているチームを見ることが大事です。ちなみに下りを集団先頭で攻めていたイネオスもコンチネンタルのタイヤを使っています。
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2種類のブレーキ
最近ではブレーキが2種類あります。リムブレーキ式とディスクブレーキ式です。ブレーキの制動力ならばディスクブレーキの方に分があります。雨の日にはその差が更に開くと思われます。ただリムブレーキ式の自転車に乗っていても下りが速い選手はいるので、タイヤの性能よりは差が出ないのかなと僕は思います。リムブレーキの制動力も過去に比べると上がっていると思います。
メンタル
下りでリスクを負うということは落車のリスクが高くなるということです。当たり前ですが誰しもが落車はしたくありません。
ここで落車したらどうしようとか考えてしまうと怖くなってどうしてもブレーキを握る回数、力が強くなってしまうと思います。
例えば僕が下りでスピードが100km近く出た時の話をします。その100km時メーターを見ずに集中して下っていて、体感的にこれは物凄く今速いスピードが出ていると感じていました。これは過去最高にスピードが出ているかもと興味本位にメーターを見てしまいました。すると100kmという数字を目で見てしまった瞬間、頭で理解してしまった瞬間に、これで転んだら確実に大怪我だということが頭をよぎり、少し怖くなってブレーキを軽く握ってしまった過去があります。
自分が落車するとは思っていない選手の方が下りは速いと思います。ブレーキを握る回数は攻める気持ちがある選手の方が少ないと思うからです。
こんなエピソードもあります。昔、香港ナショナルチームに物凄い強い選手がいました。ワールドツアーのチームにもスカウトされてしまうくらい強い選手でした。ただ彼はある時から凄く下りが遅くなりました。上りは物凄い強い選手だったのに下りが凄く遅くなりました。そしてレースでもリザルトを残せなくなっていきました。なぜなのだと誰かに聞いたら、本当か嘘か分かりませんが、どうやら大事な彼女が最近できたらしいということでした。彼女ができたら落車してケガをすることが怖くなったと。これは完全にメンタルが関係してきている出来事だと思いました。
ブエルタ第6ステージの下り何が起きたのか?
先程の3つの中で雨の日の下りでタイム差がつくのは特に2番目と3番目の要素が強いと思います。
晴れの日に下りで遅れることがないような選手が遅れるということは機材かメンタルだと思うからです。
そして下りで遅れるとその後集団に復帰するのに物凄く力を使います。
下りで差をつけられて下りが終わり、そのまま平坦路、上りと踏まれると、いくら強いオールラウンダーの選手でも追い付くことに凄く力を使います。いくら強いオールラウンダー選手でも傾斜がきつくなる上り、長い上り以外では人数を揃えられたらそれには敵いません。
そして本人にそのような問題がなくても、下りはどうしても1列で下ることになってくるので、前の選手がそのような問題を抱えていると、その選手が前の選手との距離を離してしまい、遅れてしまうことが起きます。ロードレースでは前の選手から遅れることを千切れるという言葉を使います。その千切れた選手をかわしてから自分でその距離を挽回するのにまた力を使ってしまいます。集団の中のポジションが後ろになればなるほど千切れる選手と遭遇する回数も増えてしまうというリスクがあります。千切れた選手をパスしているうちに先頭は遥か彼方に行ってしまっているということもあります。
第6ステージの下りで遅れを喫したプリモシュ・ログリッチ選手は今世界で最も強いオールラウンダーの選手の1人だと思います。第6ステージでは下りでタイムを失っていました。その後集団に復帰するのに物凄く力を使ったと思います。
記事にはレインジャケット関係で遅れたと書いてありましたが、世界的な選手がそのようなことだけでそこまでタイム差を失うのかなと僕は思ってしまいました。勿論そのことはあったかもしれませんが、もし2番目、3番目の要素が少しでも関係しているのなら、次に同じようなシチュエーションがあった場合また下りで攻められると困るので、そのようなコメントを出した可能性もあるのではないかと思ってしまいました。ただ先程も述べたように集団の後方で下り始めてしまったのなら、ログリッチ選手よりも前で下り始めた選手達で、前の選手について行けなくなり千切れる選手が続出すると先頭とはかなりの距離が開くことなってしまうので、その距離を埋めるのに大変だったと思います。
実際第6ステージ最後の下りではかなり集団が割れているように見えました。
総合優勝候補の選手が下りでタイムを失うことがたまにあるので、特に悪天候の下りは目を離せない展開になると思いました。
このブエルタが今年最後のロードレースなので楽しくこれからも観戦したいと思います。